金曜日の夜、ちょっとドキドキしたこと

昨晩仕事からの帰り道、バスの中でポケモンゴーを起動しました。自宅近くのジムを確認すると、敵のジムになっていて、カビゴンが一匹でいました。

これはチャンス、と思いました。これまでそのジムは味方のジムで、前を通るたびに餌をやっていたのですが、味方のジムであるからこそ、自分のポケモンを置けずにいたのです。

自分のポケモンを置くために餌やりをしないというのは信義にもとる気がして、できる限り餌をやることにしていました。だけど今は敵のジム。自分のポケモンを置くために戦うことに決めました。私が取り返しておけば、また友軍がポケモンを再配置できます。

ですが、です。よくよく見るとそのカビゴンが配置されたのは0分前でした。置いたばかりです。ということはつまり、カビゴンを置いたトレーナーが近くにいる可能性が高い。私はスマホをそっとポケットにしまいました。降りるバス停はまだ先ですが、ポケモントレーナーであることを悟られないように念をいれました。障子にメアリーですから。

バス停につくと、私は自然な動作でバスをおりました。ポケモントレーナーであることを微塵も感じさせない動きであったと思います。バス停から件のジムまで、時間をかけてゆっくりと歩きました。あたりに街灯は少なく、闇に紛れて目立たずに行動できました。誰ともすれ違わずにジムにつきました。ジムのまわりには、私しかいません。ですがやはり念を入れてジムの裏手にある細い路地に入りました。その路地はジムを背中に、左右をブロック塀に囲まれ、前方は崖になっています。表通りからは死角になっている場所です。私は更にその路地をすすんで、ジムがギリギリ範囲円の中に入るところで戦うことにしました。

敵はカビゴン一匹。それほど手こずる相手ではないはずです。かみつくとハイドロポンプを覚えたギャラドスで難なく勝つことができました。傷付いたギャラドスを回復して、再戦。三回勝つことができればジムを自分のものにできます。二回目も順調に勝って三戦目、と思ったときに異変に気づきました。カビゴンのほかに新たなポケモンが配置されていたのです。赤いギャラドスでした。カビゴンに与えたはずのダメージも回復していました。

近くに誰かがいる。間違いありません。私が自分のギャラドスを手当てしていた隙に、カビゴンを回復させ、赤いギャラドスを置いたのです。私はあたりを見回しました。ですがその路地には私以外、誰もいませんでした。狭い路地ですから隠れることはできません。崖の上のアパートには明かりのついた部屋がいくつかありましたが、そのアパートからジムにアクセスすることは距離的に不可能なはずです。

かすかに車のエンジンの音が聞こえました。表通りの方からでした。どうやらジムの近くに停車しているようです。直感的にその車に乗っているのが敵のポケモントレーナーだと思いました。とっさに逃げることを考えました。ここは家の近所、もし見つかると名前と住処がばれるかもしれません。「よくもわしのギャラドスをめたくそにやっつけてくれたのォ!オオン?!」みたいに家にこられたら迷惑です。

迷いましたが戦いを続行することにしました。表通りからはこちらは見えていないはずです。それにもし仮に私のいる場所がばれたとして、自分のポケモンを倒されたことに激高したトレーナーが車から躍り出てこちらに狙いを定めて殴り込んできても、私のいる場所に到着するまで10秒はかかるはずです。逃げ切れる、と思いました。ここはマイホームタウン。ありとあらゆる道に精通しています。道とも言えないような家と家のあいだの隙間、溝のなかを通り抜ける猫の道。逃げ切れると確信しました。念のため路地に入っていてよかった。何も考えずに表通りにいたら、敵のポケモントレーナーと鉢合わせしていました。

ですがあまり時間はかけるわけにはいきません。やると決めたら即座に行動。弱っているカビゴンには真田(ハッサム)、赤いギャラドスにはイブき吾郎(サンダース)をぶつけました。ちょちょいのパッパでCPを減らし、ついにはジムを破ることに成功しました。真田たちの回復も後回しにして、ジムにこはく(カイリュー)を配置しました。

よろしく頼む、今は午後10時だ、朝まで持ちこたえるんだこはく、きっと50コインもって帰ってくるんだぞ。そんなことを考えていたおれには隙ができていたんでしょう。角の向こうに何かが近付いていたことに気がつきませんでした。突然「カササササササッ!!」という音がしました。油断していたから本当にビックリしました。瞬間、私は全力で走りました。表通りと反対の方向へ、直線を走り抜け、角をいくつも曲がり、坂を駆け上がりました。途中何度か振り返ったけれど、人影は見えませんでした。ビックリした。本当にビックリした。あれはなんだったんだろう。